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交渉 (はたらくおっさん その9) [はたらく おっさん]

今年の1月某日、休み明けの月曜日、看護部長室のドアをノックした。

「看護部長、お忙しいところ申し訳ありません、ちょっとご相談したいことが・・・」


会社も、病院の窓口である総務も通さずいきなりの直訴である、あとあと面倒なことに

なるのは必至だったが、もう時間がなかった。

そもそも、この人たちが真剣に相談に乗ってくれてたら こんな無謀なことはしなくて済んだ

はずだ。


「あら、なにかしら」


困ったことがあったら相談しろ、と言っては下さっていたが、実際あらたまって訪れると

さすがに身構えられ、警戒されたみたいだ、ひょっとしたら本当に来るとは思ってなかった

のかもしれない。

もともとが ガラスのハートを持つ、ヘタレ親父の私はこの時点でいきなり怯みかけたが

ここまで来た以上、レインボーマン並みに今更 後へは引けないのだった。


「何かしら、私でお役に立てること?」

看護助手からの呼び出しが頻繁すぎて仕事にならないと、正直に話すと、契約のこととか

自分にはわからないので総務に相談したらどうかと言われた。

総務にはいろいろ相談させてもらって力になってもらってるが、この件だけは総務も踏み

込めず、何度も中途半端でおじゃんになってると伝えると、

「あと2時間後にまた来るように」と言われた。


2時間後に再訪し、ここに至るまでの経緯を最初から説明した。


10年近く前、最初にこの病院とウチの会社が契約した時、仕事欲しさに

「全部やります、なんでもやります」という狂った条件をつけていたために

年々、雑用の呼び出しがエスカレートし、本来の清掃の仕事が追いつかなくなってしまってる

ということ、


看護士や助手が忙しいのはよくわかるし、患者さんにちょっとでも綺麗な病室で入院生活を

送ってもらいたい、という気持ちで掃除しているが各階で1日に10回近くベッド移動があり、

その都度呼びつけられるというのは時間的にも人数的にも人権費の面でも現実的に不可能

であるというのを理解してもらいたい、ということ、


70歳近い高齢の掃除のおばちゃんが、朝の6時半から昼まで休憩なしで、あちこち呼びつけ

られながら仕事してるにも関わらず、ちょっと姿が見えないと「さぼってる」と総務に報告される

現状、


こんな状態なのでパートが来ても続かず、人は減る一方で、もう来週からの予定がたたなく

なってしまってることなどなど・・・


普通ならホンマかいな、と疑われるような内容だったが、もともと看護部長自体が着任早々

「こんなおかしな病院はじめてだわ・・・」

と、呆れるほど本当におかしな病院だったので、実にあっさり納得してもらえた。


ただ、私の一存でこの場で勝手に即決することは出来ないので今日の師長会議で各階の

師長に伝えた上で内容を吟味して方向性を出します、との事だった。


そして3日後・・・

「看護士や看護助手はベッドを動かした際、さほど床が汚れてない場合は必要以上に

清掃員を呼ばないこと、自分達で出来ることは極力 自分達でやる事」

といった、小中学生向けのような極めて常識的な内容が文章で正式に看護部に通達

された。



この病院に派遣されて5年、責任者として3年半、いくら契約とはいえ、奴隷同然の扱い

だった清掃員たちが最低限の権利を勝ち取った瞬間であった。


(つづく)






































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青竹

責任感と行動力を持っておられる看護部長さんですね。
そのような方が上にいてくれると、関係者がどれほど
仕事しやすくなることでしょう。
往々にして世間は自己保身ばかりを考えている上層部が
多いものです。
しかし、本当に自分が窮したとき助けの手を差し伸べて
くれる人がいることもまた真理なのでしょう。
by 青竹 (2012-07-20 10:08) 

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