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Time is now (おっさん その8) [はたらく おっさん]

「何か困ったことがあったら相談しなさいよ」


着任早々の新しい看護部長が、たかだか下請けの掃除屋を看護部長室に招いて下さり、

お茶とお菓子を出して、もてなしてくれるなどとは信じられない話だった。

このころは、まだ何とか無理矢理だがシフトは回せていたし、ひょっとしたら求人募集で新しい

人が入ってくるかも、という希望もあったので、さほど深刻に相談することもなく、看護部長室を

後にした。


しかし長年に渡って文字通り奴隷のように扱き使われ続けてきたツケが、遂にこの年の暮れに

ピークに達してしまった。

特に1人で2人分働いてくれていた副主任が抜けたのが致命的だった。

結局12月になっても新しい人など入って来ず、メンバーの殆どが何かしらの不調を抱えたまま

年を越してしまった。

毎年、12月には何人かで集ってカラオケに行くのが ささやかな楽しみだったのだが、さすがに

この年は副主任が辞め、若い子たちは辞めたり引き抜かれたり、ベテランさんは体調不良で

誰も参加者が居らず、初の中止になってしまった。

仕事に関しては過去最悪の年だったが、来年が良い年になるとも到底思えなかった。


そして年が明け、雪が降ったりして更に高齢メンバーの不調に拍車がかかり、とうとう1月も

半ばにして予定が組めなくなるという事態が起きようとしていたが、病院側はそんなことは全く

お構いなしで、相変わらず些細なことで呼びつけ、同じ場所を何度も掃除させ容赦なく扱き使い

続けた。


「何か困ったことがあったら相談しなさいよ」


いよいよ切り札とも言うべきこの言葉に頼る時が来た。


ただし、直接に看護部長に直訴するとなると相当なリスクが伴う。

本来、我々 下請け業者の窓口は病院の総務である、今までも相談や報告はこの総務にして

きて、大抵の事は実行してくれたりしたのだが、現場サイドと事務系との軋轢というのは

ここでも存在するようで、看護部に対してはあまり強く言えないみたいで、実際言っても聞いて

もらえないようだった。

総務に「看護部長に相談したい」と言えばストップがかかるのは目に見えてるし、かといって

総務を飛び越して看護部長に直接相談に行くと、総務を蔑ろにした形になり面目丸つぶれの

ような状態になる。

ただでさえ突然キレて「貴様」と罵倒しながらボールペンを投げつけるような人物である、どっちに

転んでも無事では済まないだろう・・・

今後の事を考えると気が滅入った。

それにしても

こんなことは本来、会社がすることだろうに・・・


私は生来、貧乏性なので、ひょっとしたら この先もっと大変なことが起きるかもしれないので

その時の為に、この絶対的な切り札を取っておきたい気持ちもあったが、現実は、もう来週の

予定も立てられないくらい職場自体が疲弊し、満身創痍の状態で、切り札を温存してる余裕

などなかった。

今を乗り越えないと、この先も無いのだ。

「困ったことがあったら何でも相談しなさいよ」


今がその時だった。

(つづく)
















































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青竹

会社組織は縄張り意識が強いというか、役割分担があって
そこに権力意識も伴っていますから、それを逸脱した
行為に対して厳しく当たってきます。
しかし、怒鳴りつけて威圧することで従わせようとしたり
暴力行為に準じることをしておいて平気な人間は上に
立つべきではありません。
部下もそして関係者もみな迷惑するからです。
残念ながら今も昔も日本では、そのような最低な人間が
上でのさばることが多いのが現状です。
それでも精一杯誠意を持って努力していれば、それを
見てくれている人、手を差し伸べようとしてくれる人が
いることもまた事実です。
by 青竹 (2012-07-19 12:43) 

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