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まさかの結末(後編) [まさかの結末]

「お父さんって、いっつも最後にこういう失敗するよねー(笑)」

町内会長宅に侘びをいれて帰ってきてから妻に事の成り行きを話すと、笑いながら

呆れていた。

「まあ、でも忘れてたんはお父さんの責任だから仕方ないよね、私のほうからも

ちょっと謝りに行っとくよ」

と言って妻は翌日、酒屋で日本酒を買って謝りに行ってくれた。本人は不在だったので

奥さんに託けて帰ってきたらしい。

せめて運動会が開催されていれば体育部長としての責務を果たして挽回するチャンスも

あったのだが、よりによって最後の行事が中止になってしまったので結局、後味の悪い

まま、「アホ体育部長」として一年を終えることになる。

要領が悪いなりに毎日毎晩 準備に明け暮れ、大変な思いをしてきたオチがこの仕打ちか

と思うと やりきれなかったが、妻が言うように誰が悪いわけでもなく、私がこういう

詰めの甘い性格なので「しゃーねーな」と割り切るしかなかった。


そんなこんなで、嫌な疲労感が取れないまま3日が過ぎた昨日の夕方、ぶらっと近所の

郵便局にハガキを出しに行った帰り、町内の年輩の方から声をかけられた。

「運動会、楽しみにしてたのに中止になって残念やったねえ」

ごくたまに公民館の集りなどで挨拶する程度だったが、向こうはよく知ってるような

親しげな話しかただった。

「ええ、そうですね」

「まあ、今回は残念やったけど、この前の町内の運動会は、ほんとにええ運動会やった

 よ、お疲れさんでした」

実は3週間前に行われた町内の運動会も、徹夜で段取りしたにも関わらず、当日は不足

な事だらけで、舞台裏は目を覆いたくなるような惨状だったが、表向きは何とか無事に

和やかな雰囲気で終えることが出来てたのだ。

「いえいえ、もう至らないことばかりで本当に申し訳ないやら恥ずかしいやらです」

と、応えると

「いや、上手に出来る出来ないも大事だが一生懸命やってくれてる姿が嬉しいんや、

 ワシはな、あんたら家族が他所から来てこの町内の為に尽くしてくれてホントに

 ありがたいと思ってるんや」


箪笥に足の小指をぶつけた時しか涙が出ない鬼畜親父の涙腺が一気に崩壊しかけたが

40過ぎたおっさんが道端でいきなり泣くわけにもいかず、なんとか踏みとどまった。

これ以上まともに受け答えが出来そうになかったので丁重にお礼を言い、その場を

離れた。

これもまた、まさかの結末だった。


人生には3つの坂があるという

上り坂

下り坂

そして・・・

まさか


しかし、まさか は,あながち悪いことばかりでもないようだ。




あっと言う間に日が暮れて、すっかり肌寒くなった帰り道

心の中を嬉し涙で潤してサエない親父は何事も無かったかのように家へと辿りつく

のでありました。


(おわり)












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コメント 3

koume

後味悪いことばかりじゃないんですね。
こうやって見てくれている人は居るって言うのが、励ましになりますね^^
良かった良かった♪
by koume (2012-10-05 12:03) 

マンチ軍団

ちゃんと見てくれている人がいるんですね!

by マンチ軍団 (2012-10-06 01:05) 

青竹

この世はまんざら捨てたものでもないということですね。
自分勝手で嫌な人もいれば、そっと励ましてくれる人も
いる。それが世の中なのでしょう。
by 青竹 (2012-10-06 11:16) 

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